スポーツ好きの方であれば、プロ野球選手の引退セレモニーやスピーチをテレビで見たことはあるだろう。彼らは野球がうまかったのであって、もちろん話すことにおいてプロではない。
でも会見でひたむきに話すその姿には心を動かされる。
これって緊張しながらも懸命に話すわれわれビジネスパーソンにも当てはまることではないだろうか?
さて、直近に引退した有名なプロ野球選手といえば、「藤川球児」「松坂大輔」「斎藤佑樹」が記憶に新しい。
今回は彼らの引退スピーチを取り上げ、一般ビジネスマンが人前で話す際に取り入れるべき点をまとめてみたい。
(この記事は2022年1月に書いたものです)
藤川球児の引退スピーチから学ぶ
少し前のシーズンのことになるが、2020年11月11日「藤川球児」投手が引退セレモニーを行った。
以下のYoutubeでは7分あたりから彼は話し始める。約11分間のスピーチだ。
まずは彼のスピーチを見てほしい。
彼の経歴については有名なので詳しいことは割愛させていただくが、1999年入団のいわゆる松坂世代。
阪神タイガースからアメリカに渡ってメジャーリーグを経験するも、帰国後は四国の独立リーグを経て、再び阪神に返り咲いたNPBプロでも異色の存在である。
彼は終始、同期のライバル「松坂大輔」のことを気にしていた。それだけに松坂選手とは特別な存在だったのであろう。
さて肝心のスピーチであるが、演台の上にはちゃんと自分で考えたと思われる原稿を用意している。
もちろん時折原稿を見ながら話しているが、終始しっかりと前を見据えて話している姿は、とても堂々としている。
11分のスピーチ中には感極まって言葉に詰まることもあったが、しっかりと自分で立て直している。
もちろん藤川選手は相当緊張していたはずなのであるが、観衆に笑顔を見せて話しているところがとてもいい。
これだけ偉大な投手だったのにも関わらず、いっさい自慢話をすることなく謙虚な態度がとても好印象だ。
さらには親切にしてくれた清原和博氏の存在、また球児という名前をつけて大事に育ててくれた両親への思いがジーンと響いてくる。
引退後のこれからは、現役時代にはできなかった家族サービスをするいいパパになるだろう。
彼はスピーチ最後のほうで、彼の魔球「火の玉ストレート」の話をしている。その球威は強打者にとってもすさまじかったらしいが、藤川自身は「それが投げられたのは、甲子園のライトスタンドからのファンの声援が後押しした」と観客に対しての感謝の気持ちを表現している。
これはあながち嘘ではないと思う。
このことはあなたも覚えておいて欲しい。
スピーチを成功させるには、あなたのスピーチ力だけの問題ではない。つまり聞き手を意識し、どれだけ彼らを巻き込めるかにある。
これがスピーチのキモなのだ。
独り言を話すために人前に立つわけではない。
あなたの思いを伝えるために前に出るのである。
【まとめ】藤川球児のスピーチから学べる点
- 原稿は見ているが、常に前を向いて話している
- 決して自慢話をしない
- 人に対する感謝の気持ちは、聞いていて気持ちがいい
- 話すエネルギーを聞き手からもらっている
松坂大輔の引退スピーチから学ぶ
さあ、松坂世代と言われた張本人「平成の怪物」と言われた人物である。
彼も藤川と同じ1999年、西武ライオンズに入団し、2021年の引退時も同じ西武球団でユニフォームを脱いでいる。彼の功績についても言うまでもないだろう。
オリンピックも3度出場し、日本を2度も金メダルに導いた立役者だ。
彼の引退スピーチは、2021年12月4日行われた。以下のYoutubeをぜひご覧いただきたい。
松坂選手は最初は何も見ないでスピーチをしている。
しかし途中で「モノ覚えが悪いので、紙を見て話していいですか?」と断ったうえでポケットから原稿を取り出して話し始めている。
この正直さがとてもいい!
背伸びをすることなく、格好つけないで原稿を見ることはとてもいいことだ。
過去のスピーチで原稿なしで失敗した経験があることから、暗記に頼ってスピーチをすることをやめた判断は正しい。
たぶんいくつも出てくる固有名詞を間違えたくなかったからだと思われる。
彼が真剣に考えて作ったスピーチは、文章も理路整然としており素晴らしかったと思う。
さらには、原稿を見ながらとはいえ顔を上げて話せているので説得力が出ていた。
お世話になった人への感謝の気持ちと、現役で頑張る選手に対して「体のケアにお金をかける重要性」について語っていたことが印象に残る。
素晴らしいスピーチをした後での場内アナウンスは、言葉の内容としゃべるタイミングが難しい。
この時司会進行をしていたウグイス嬢もコメントがしづらい中、「もう一度松坂選手に盛大な拍手をお送りください」と上手に締めていたと思う。
【まとめ】松坂大輔のスピーチから学べる点
- スピーチは暗記はしてはダメ
- 原稿を読むことは格好悪いことではない。失敗するより全然いい
- 自分のスピーチ内容は、真剣に悩んで考えよう
斎藤佑樹の引退スピーチから学ぶ
このYoutubeは1分30秒ほどのとても短いものであるがとてもインパクトがある。これもぜひ見て欲しい。
田中将大や坂本隼人は、斎藤と同期であることから「ハンカチ世代」と言われる。それだけに彼は昔からスター的シンボルであったのだ。
早稲田大学入学後も1年時からマウンドに立ち、優勝に貢献。
常に大舞台で活躍する姿は、有名な言葉「ヤツは何かを持ってる」と語られた。
しかしプロに入ってからは2軍生活が長く、またケガにも悩まされて最後まで苦しみながら現役生活を終えることになる。
たった短い1分半の淡々と語る彼のスピーチであるが、斎藤佑樹の選手生活を物語る素晴らしいものであったと思う。
彼は終始冷静に前を見据えている。目は澄んで安堵感があり、一切迷いの色は見えない。
斎藤選手は本当に頭のいい人だと思う。スピーチからそれが感じて取れる。
このスピーチは彼自身で考えた内容であると思うが、ムダなものが微塵もなく、一言一言がすっと入ってくる。
過去の彼の栄光とキャラクターを短い時間でうまく表現したものだ。
スピーチの最後には、「本当に持っていたものは、最高の仲間」とすばらしい締めでくくっている。
かれは「持ってる」と言われ続けたのが嫌だったに違いない。努力と功績をすべて「運」のおかげと一言で片づけられることへの反発だったのかもしれない。
野球ではなくしぐさやハンカチに注目される報道にも嫌気がさしていたと思う。
2021年12月10日、33歳にして彼は「株式会社斎藤佑樹」を立ち上げた。
これから始まる新しいキャリアと情報発信に期待している。
彼の個性を前面に出して弾けてほしい!
【まとめ】斎藤佑樹のスピーチから学べる点
- 原稿を持っていない。暗記しているのではなく話したいことが頭の中に入っている
- 2分以内のスピーチが最もインパクトがある(聞き手が集中できる時間)
- 締めの言葉「本当に持っていたものは、最高の仲間」は、ずっと考えて生み出したものである(アドリブではない)
まとめ
プロ野球選手はもちろんスポーツのプロである。
プロ野球界では毎年200人近くの選手が、戦力外通告・退団・引退により次の人生に進む。
引退セレモニーもなく会見自体が取り上げられない選手の方が多いくらいだ。
その点、今回紹介した3人の選手はスター中のスターである。
彼らは自分の引退会見についてはかなりの時間をかけていると思われる。準備と練習をしたに違いない。
話すことを苦手にする選手は多いのだか、自分の引退は自分の言葉で伝えねばならない。
だから言葉に詰まっても、自分事であるから話せるのである。
一般ビジネスマンであるあなたも同じである。
スピーチはテクニックではない。自分の思いを伝えられるかだ。